虎視眈々

そういうことではなくて。
接近戦に弱い。

忘れていた匂い

カウンター越しにしか見なかった手の形

それが今、私と並んだ。

冗談でも、無意識でも失神しそうだった。


なんでも知ってる

私の乾いたところを潤してくれる

誰にも話さないことを私に話してくれる

あの人の愚痴は、うれしくてたまらない。

笑った顔も好きだ。


私にだってわかる。いくらなんでも幻想ではないのはわかる。
本当にリラックスした顔を見せてくれるのが何より幸せだ。
それだけで今は、お腹いっぱいになるようにしていたんだ。

それが今日

あの日以来、近づいた。

私の肩に顎がのり、ひげの生えた頬の香りが一気に嗅覚を刺激して
私の背中に広がる体温、大きさの違う指が地図の上に並んで

地図を凝視する振りで精一杯だった。
帰り道、一歩一歩自宅に近づくたび、気持ちが膨らんでいった。
押し込んで蓋してた恋心が、また鮮やかに色づき始めた。


また少し、抑えられない。
好きな人に好きになってもらいたい、ただそれだけのことで苦しむのね。