ブラック

シャンパンの中にイチゴをしずめて、田舎のポツポツした夜景というには申し訳なさそうな景色を眺めてお祝いした。さぁ、私にはシャンパンの味もわからないし。イチゴをわざわざ沈める意味だってわからない。無邪気に振舞えぬその空気に息苦しささえおぼえた。

私は18だった。

夢も希望もなくて、魚の目をした私にいわゆる煌きというものをみせてくれたのだ。



必死に探した何件かのお洒落なカフェは満席で、仕方なく通いなれたドリンクバーのあるファミレスに謝りながら入った。騒がしい店内と飲みなれた不味いカフェラテ、ようやく平静を保てるようになったころ、口を開いた
「最低なところだし、最低な味」と。

私は丸ごと否定されたのだ。

でも、なんだか笑えた。もう世界が違いすぎて笑えるのだ。この人の前では大きな口をあけて笑えないし、好きな服装もできないし、なんだか体中強張っている。この人でなくても私は幸せになれるのではないだろうか。背伸びして飲んだブラックコーヒー、はじめておいしいと思えた冬のこと。