正直、初対面でイイ男だと思った。というか、昔好きだった人に似ていた。
深夜のファミレスで話をした後、「泊めて」と言われた。初対面なのに図々しいって思った。
自宅にあげることは出来ずに、漫画喫茶へ。
漫画喫茶へ行ったのに、明け方眠いからベッドで寝たいからとか土下座レベルの懇願をされホテルへ行った。
いくら、しないよって言ってもそういう場にいけばOKしたも同然。
結局、した。

えー、なんかむかつく。

「ちゃんと責任とってよね、あたしの気持ちの」『じゃ、好き』
意味わかんねーやりとり。

付き合うことにした。
全然好きになれなかった。お互いに。あたしは自分に暗示をかけた。
そしたら効果覿面。
でも何にも成長できない関係。くだらない。
ちょっと浮気をしてみる。激しく動揺しているのに、
気づいてもらえない。
落胆。
でも、期待をした。
一緒に住んだら変わるかも。同棲スタート。
分担家事といいつつも甲斐甲斐しく世話をする。
早朝の食事、弁当。見送りお迎え。お洗濯。
期待、期待、期待、ひたすら期待。
ことごとく裏切られる。
期待通りに応えてくれる男にゆらぐ。
もうすぐ誕生日。
あたしの誕生日は来なかった。
期待応答男がとても紳士。泣いた。
でも天秤にかけ、常にそばにいる男を選んだ。
バカだった。
でも甘えてくるときもあった。意味はあると思った。
月に1度は喧嘩をした。大喧嘩。
警察沙汰になった。首絞められた。
でも許した。
だらだら続いた。
別れたいと言うが、別れられなかった。
相談するたび、友達がだんだんあたしに腹を立てている。
このまま一人になっちゃう。
一人になるのいや。
このまま彼さえいればいいとか思い始める。
突然彼が出て行く。実家に帰っちゃった。
ポツーン。
あれ、結構平気。
あ、でもやっぱダメ。
別れたことにした。友達必要。
本気で叱られて、目が覚めた。
どうしよう、どうしよう。一人になるのは絶対に無理。
そうだ、彼に会いに行こう。
そうだ、一人になるなんて考えなきゃいいんだ。
ようし、別れてやる。
別れられた。
でもどうしようもなく寂しくてつらくなる。
泣いてるときそばに誰か居て欲しい。
誰かの隣で泣きたい。

悔しいよ、くやしいよ。こんなにも時間を無駄にしてしまったこと。失わなくて良かったものまでなくしてしまった。手で掴んだ砂のように、指の間からいつのまにか流れ落ちてた。長いこと砂浜を歩きわっしわっし掴んだ砂。小さな粒子ひとつひとつが大切だったのに砂利のないサラサラの砂だった。湿った手に残ったわずかな砂が太陽に照らされてキラキラしてた。だから手は洗わないよ。ちょっと気持ち悪いけどパンパン払ったりしない。
また砂を掴んだときそのキラキラの一部は落ちてしまうかもしれない。そうやってあたしの手の中の砂は入れ替わっていく。今は何にも持たなくて素手で掴めるだけ掴む要領の悪いやり方でもいつか向こうの砂浜につく前に瓶とか、バケツ見つけるかもしれない。そのときはたくさん詰め込みたい。
でも、今この手に残るキラキラの粒が一番必要なものだとしたら、もう砂浜の上を歩くなんて止めたい。砂の上を歩くほど体力が奪われる地面はない。ましてや走ったりしてるあたしにとっては過酷過ぎるよ。
白、青、オレンジ、紫、群青、黒、闇。いろんな色に変わる海だって知ってる。いつかその海の話が出来る人が現れたらおんぶしてもらおう。いや、ちょっと子供っぽく肩車してもらいたいや。それか、女の子らしくお姫様抱っこでもいい。
並んで砂の上を歩くのも、一人でいるより過酷ではない。長いこと砂の上を歩いてるからあたしがガイドをしてあげよう。綺麗な流木を見たこと、星の砂がある場所、天然の灯りのことやいろいろいろいろはなしてあげよう。

大きな砂浜だと思っていたが、実は小さい砂場だったりする。あたしが小さいだけの話。