東京の男

Baby FaceFACE 2 FACEの着うたが久しぶりに流れて、久しぶりに画面に映し出されたのは東京の男。
毎度、東京駅であたしは溶けていた。恋をしていたというより、憧れと理想そのものの大人の彼に目が眩んでいただけ。プラトニックラブだと言い張っていても見たくないところを避けていただけで、彼には家庭もあったしそう長く一緒にはいられない相手だとわかっていた。だからこそ一緒にいられる時間を一瞬も無駄に出来なくて泣いて困らせるようなことはしなかった。

待ち合わせをしたら、誰も知らないバーで一杯だけ。ホームまで送ってもらったら別れ際にキスをするくらい。あたしの目の中にいくつ星がはじけ飛んだことか。好きでも、愛しているわけでもなかった。なんとなく温かい感情に浸っていたかっただけ。

数ヶ月してあたしは激しい恋に落ちて、東京の男なんて忘れていた。

あたしをかわいがってくれていることは痛いほどわかった。手が髪や頬に触れるだけであたしはしびれて溶けてお姫様になった気分だった。梅雨の時期高いビルが揺れて見えた蒸し暑い新宿であたしたちは出会った。完璧に大人の振る舞いをしてくれた彼に惹かれていた。
嬉しくて急いで開いた受信ボックスには、大人の彼が入れたものとは思えない下劣で興醒めする内容だった。

返す言葉も見つからなくて、今はただ時間が流れたことにがっかりしている。