しあわせなこと

私たちは抱き合いながらお互いの肩に顔をのせて話を始めた。

手が不自然にぶつかり合いながら歩き続けていても、あっという間に距離は縮んでいて絡みたがってる指に素直になれずに先を急いだ。ふっと同じ空気に包まれたときだけ自然と繋がる手と手が熱い。寒いといえばカーエアコンをONにするのではなくその手を私の肌に置く。

あ、っと気づいたときにはそれが当たり前のように優しくて不思議にも思わなかった。
照れくさくて「なんで?」と尋ねてしまいそうになったけど、きっと彼が触れたかったように私も触れて欲しかった。

瞳を見ながらなど、何も真実は語られない頑固な唇をしている。それはお互いに。
だから抱き合って確かめた。

声に混じって身体に響く鼓動が何より真実を訴えていた。

「帰りたくない、帰したくない」
「キスがしたい、キスがしたい」


それはそれは、長く。君が愛する赤い箱の中で。
もう家の前だというのに離れられずにもどかしい言葉だけで伝え合った。
そっと仕舞っておきたいくすぐったいことを彼が言うので、私も鸚鵡返しをした。
同じ想いだった。

ただ、離れたくない。ただ帰りたくない、帰したくない。

ただそれだけ。