「愛すること」を知っている男
少し痛い。
わたしの知らないあなたを垣間見た。でも、あんなふうに笑うんだ。優しいんだ、その笑顔。あんなふうに抱き合うのか。あんなふうに愛しそうに抱きしめるんだ、彼女のこと。
うそみたいなことを言うけど、幸せそうなその姿を見てわたしは嬉しかった。
同時に、痛くてつらくて。
わたしはきっと高い高い壁のむこうに追いやられていた。きまぐれにあなたが様子を見に来てくれる。手を差し伸べればそのときだけ、望んだことを叶えてくれる。
どうして、あたしにはその笑った顔みせてくれないの?どうしてあたしのことあんなふうに抱きしめてくれない?どうして?思えばいつも、あたしからだった。笑いかけるのも、抱きしめるのも。
でも、好きだから・・・なんて思えない。最初からわかっていてはじめた恋ならばどうにでもなれたのに、あなたは私に嘘をついた。その嘘さえも愛しく思えるけれど、それ以上にあなたのその、私の知らないあなたの愛あふれる動きはとても痛い。重傷だ。重体だ。私は。
愛に狂っても、嫉妬に狂うのはあまり美しくない。