其の男、人の話に耳貸さん

そろそろ私事のお惚気話も厭き厭きしたころですので、私めが担当しておりますとある客の話でもしようかと思います。

甲高い声でその男は本当によくしゃべります。その辺の芸人よりも前のめりに話し続ける。一体、どこでどんな息継ぎをしているのか不思議なくらいだ。全体的に丸い体型と引きこもり特有の色白さでニコニコしていて正直気持ち悪いとしか言いようがない。しかも、無趣味であろう。酒は飲めない。痛風一歩手前だから外食も楽しくできない。あくせく働いたお金はすべて病院か、くだらない女遊びに費やすばかり。
そんなお馬鹿さんがいるからあたしのような職業の人間が食ったり遊んだりできているのだけど…
どんな男だってあたしは第一印象だけで斬って捨てるようなことはしない人柄重視に生活しているがその男にだけは出会って数秒で嫌悪感を抱いた。耳障りな高い声でひたすらつまらない話をまさに機関銃のように話す。話題が豊富でおしゃべりなのとは全く違う。とにかくつまらない話な上に、会うたびに同じ話ばかりするのだ。一番多いのが「痛風一歩手前だから…」から始まる。もういい加減にしてほしい。こちらとしても同じ話に同じような答えを違うニュアンスで返すことはできるがこちらが話す隙は一切ないのだ。精々できて、相槌だけ。そんな男だからわが職場にちょくちょく足を運び発散するしかないのだろうけどあたしの営業スマイルと営業キャラもそろそろ爆発寸前だぞ。
聞き上手になれない男は一生、いや死んでもモテるわけがない。人の話というか意見を聞こうとしないやつは異性に嫌われるのは当たり前である。いい加減うちの店には来ないでくれ。殺したいくらいお前のことが嫌いだ。

休みだっていうのに電話がかかってきた。
あたしは彼と一緒に歩いていたが仕事の電話なので一応とってみると、
「あ、今、僕****にいるんだけど今日は仕事かな?あれ?なんか騒がしいね?どこにいるの?あ、そういえば久しぶりだね!ご飯食べた?」
一気に話すのだ。
『仕事休みで今横浜で…』
「えーそうなの?ついさっきまで横浜いたのになぁ」
『あのね…今からごは…」
「なんだぁ、もうちょっと横浜で時間つぶせばよかったなぁ、最近どうなの?僕また薬増えちゃってさぁ、でも!まだ痛風は一歩手前〜あはは」
聞 い て ねぇ よ!!!! んなことっ
『あの、今からねご飯食べに、』
「ご飯食べに行くのかぁ?僕最近外食してないよー、ていうかできないんだけどねーへへへ。お酒も飲めないし〜。先月は地獄だったよぉ、新年会新年会でさー。飲めない人間にとってはつまんないイベントだよぉ」
しらねーよ。どうでもいいよ。お前のことなんて本当にどうでもいいよ。聞いてないことしゃべるなよ!ていうかこっちにいろいろ聞いておいて答えさせろよ!
『また、後で…』
「あ、ごめんごめん。んじゃ、まったねー」ブチッ

電話を切るのだけは早い。

”もう。そういう人をお客さんにしちゃだめ!"
不機嫌な彼がより不機嫌になる。一応理解はしてくれているもののその男とのやりとりだけは聞かれたくなかったのだ。

あー疲れた。