コーヒーブラックホール

覗き込んだ白のマグカップに、汚れた闇を注いで音を立ててすすった。

粉が熱い液体に変わり、汚れた闇の少しは気体になって顔を撫でた。安物の偽物のすっぱい香りが鼻を刺す。ひと口に含んでも汚れた闇の味だった。

それ以降口にすることを止め
いや、忘れた。忘れようと思った。ゆるゆると揺れながら黒の水面に映る私の顔は至って普通の顔をしていて普通ってそれはもう喜怒哀楽のないマネキンのような顔。マネキンのようにすました顔はしていないけど、生きていないような顔。生きていないような顔が普通なのかと思うと少し違う。

おもしろいくらい私の口は誰かを傷つけ勇気づけ
愛めいたことを言ったり、音を奏でたり

嘘を言う。


悲しいくらいすべてが自分に向けて放たれた言葉だということを知る。

すっぽり空いた穴のように見えるマグカップの中に吸い込まれてしまいたい。それはもう砂糖のように、ミルクのように溶けて消えてなくなってしまいたい。汚れた闇は変わる。
甘美な世界。誰かが口に含むなら私の目に映るブラックホールは姿を一瞬消す。飲み干してくれる誰かの中で生きていきたい。

おもしろいくらい

傷つき、空回りする勇気をもって愛を語り綺麗な音をくちずさみ、嘘を言う私を

どうか飲み干して。